卓話「地域で新型コロナウイルス感染と闘う」林かぐみ様

林かぐみ様写真

アジア保健研修所(AHI) 林かぐみ様

『地域で新型コロナウイルス感染と闘う』
~フィリピン、ダバオからの報告~
卓話講師:公益財団法人アジア保健研修所(AHI) 林かぐみ様

現在世界を席巻している新型コロナウイルス感染は、半年前には想像もつかなった事態です。本日は、貴クラブがつながりを持たれているフィリピン、ダバオのNGOであるダバオ医科大学付属プライマリヘルスケア研修所(IPHC)の取り組みをお話します。

■現地の状況
8月下旬時点で、全国で感染者数21万人以上、死者3,600人以上が報告されています。このうちの約半数がマニラ首都圏での発生です。マニラ周辺では厳しい外出規制が8月初めに再び出されました。日銭で生計を立てている人はもちろん、地方から首都圏に出稼ぎに来た人たちが仕事もなく故郷に帰れず、足止めされている状況があります。
政府による生活困窮家庭への支援金が出されたり、保健医療については、PCR検査から治療まで公的健康保険の対象とするなど政府も対応策を出していますが、十分ではありません。全国的な拡大を受け、ダバオ市内では6月初めに3つの民間病院が新型コロナウイルスに対応する医療機関として指定されました。そのひとつがダバオ医科大学病院です。これを受け同病院は、病棟の一部を専用区域とし患者の受入れ体制を整えました。

■IPHCの取り組み
IPHCは、40数年前にある医師夫婦が無料診療所を開いたことに始まります。地域の貧しい人のためにと開いたものでしたが、予防の知識が十分でない人びとは、同じ病気で何度もやってくる。根本的な解決が必要だと、保健ボランティアの育成を始めました。住民に助言や指導できる身近な存在が不可欠だと考えたのです。これは現在、フィリピン全土で行政の仕組みとして組み入れられています。
その後IPHCは、収入向上や衛生的な環境整備を含め、生活全般を改善するために活動の幅を広げ、また地元の行政との連携を重視するようになりました。

ポスターを使って予防教育に取り組むフィリピンダバオIPHCのスタッフ写真

ポスターを使って予防教育

絵を描く子どもたちの写真

子どもたちには「コロナ王様」の絵を描くことで理解を図る

5月下旬ダバオ周辺の外出規制が緩和されてからは、IPHCのスタッフは新型コロナウイルス感染拡大を食い止めるために、積極的に地域に出かけ活動を行っています。
感染が疑われる場合の対応を含め、予防教育が様々な形で実施されています。外出禁止期間には、家庭菜園をすることが推奨されていましたが、家族や近所の人たちと関係の濃いフィリピンの人たちにとっては一層ストレスと感じられたでしょう。人びとが集まることができるようになってからは、そのときの気持ちを話し合うことなども持たれました。
このような取り組みは、行政と連携しながら、地域のリーダー、保健ボランティアなどの協力を得て進められています。

■地域のフロントライナー
IPHCは、住民一人ひとりが健康的な暮らしを作るため行動することをめざし、そのために住民への啓発に努めています。その牽引役が、IPHCの支援を受けた地域のリーダーやボランティアです。
その一人をご紹介します。

エリザ・バサリスさん写真

エリザ・バサリスさんは、ダバオ市内の一つの地区で、栄養推進委員をしています。受け持つのは348戸です。

彼女は言います。
「住民を感染から守るためのフロントラインに立つ者として、外出禁止の期間中も活動を中止しませんでした」
「新型コロナウイルス感染をどう予防するかだけでなく、通常のように正しい栄養摂取についてや妊婦への検診の呼びかけもしています。政府による生活困窮者支援の対象になる人たちのリスト作成にも協力しました」
「自分も感染する危険があり怖いと感じましたが、でも住民のために働くことは私の誇りです」

IPHCの支援を受けたたくさんのリーダーが草の根で人びとの健康を守る最前線にいます。