秋保賢一 会員
安藤会員からパスト会長として職業奉仕について話をするようにとのご依頼を頂戴しました。
もともと当時のシカゴが無法地帯であり,信頼できる仲間と安心して取引したいというところからロータリークラブが始まっていますので,親睦と職業倫理の確立が出発点であったと思います。その後,単なる互恵取引の利己的な団体だという批判が出てきたため社会奉仕活動も行うようになっていきます。
そして,後に国際ロータリーの会長に就任するハーバート・J・テーラーが倒産寸前の会社の建て直しを依頼された際に「四つのテスト」を思いついて,従業員に徹底した結果,見事再建に成功したとされています。もともとは,地元で次々に新しいお店ができてはつぶれていく中でずっと生き残っているお店があり,なぜだろうと思ったところからヒントを得たとされております。正直でまっとうな地元の人に信頼される商売をすることが継続的な事業経営のために必要であるということですね。つまり4つのテストは,もともとは安定的な企業経営のための戦略,コツだったわけです。
しかし,これは同時に職業倫理を示しているものでもあったので,テーラーがロータリークラブに版権を譲って以後,ロータリークラブの標語として使われるようになりました。
この「真実かどうか」というのは,もともとはその商品やサービスに嘘偽りがないかという意味であり,「みんなに公平か」というのはもともと「公正」と訳すのが正しいようであり,それが公正な取引と言えるかどうかという意味です。「好意と友情を深めるか」というのは,取引先や顧客との間で信頼関係を築けるかどうかということであり,「みんなのためになるかどうか」というのは,自分だけが利益を得るのではなく,相手方にも利益が生じているかどうか,つまりWIN・WINの関係になっているかどうかということです。なお,この「みんな」というのは,もともと,all concerned つまり関係者各位であって,従業員も含むと言われています。
その地域社会の色々な職業のトップの人たちが,この四つのテストに従って,信頼関係を基礎とした安定的,持続的な企業経営をしていく,平和共存的な取引関係を構築していく,そうすれば,その地域社会全体が安定的に発展するというのが,職業奉仕の考え方であると理解しています。それが日本全体,さらに世界全体に広まっていけば,最終的には世界平和につながるというのが職業奉仕の理想であると考えています。必ず取引の相手方のことを考える,相手方の損失や犠牲の上に自分の利益を獲得することを否定していくと,格差解消につながるのではないか,格差がなくなれば,国際紛争も起きなくなり,ロータリーの究極目標である世界平和が実現するのではないかという,そういう遠大な理想だと考えています。これは同時に企業戦略として捉えることも可能だと考えています。ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われている頃は,日本の製品は質が高く,日本の企業との取引は信用できるということで国際競争力を築いてきたのではないでしょうか。四つのテストは単なるお人好しにとどまらないと考えています。
この職業奉仕の理念,哲学は,本家のアメリカよりもむしろ日本に定着し,浸透しました。なぜかというと職業奉仕の理想と似たような考え方は,昔から日本にあったからです。近江商人の「売り方よし,買い方よし,世間よし」というのは職業奉仕の理念そのままです。4つのテストが発明される200年も前に日本の商人が同じ考えを持っていたわけです。職業奉仕の理念,哲学は,日本人の精神構造にもマッチしました。
ところが,本家本元のアメリカでは必ずしもそうではなくて,職業奉仕が軸足の右足だとすると対外奉仕の左足が,常に軸足をこちらに移すようにと働きかけてくるわけですね。そういう中で分離独立したのがライオンズクラブです。ライオンズクラブには,職業奉仕という考え方がないので職業分類もありませんし,例会もロータリーほど重視しません。ロータリーの場合は,例会が単なる親睦を超えて,その地域の色々な職業のトップの人たちが毎週集まって社会,経済について語り合う,職業奉仕の理念を自分の商売の中にどうやって実践していくかを考える場だということになっているために職業奉仕を重視することは,そのまま例会重視になるわけです。
その後も色々と紆余曲折があって,現在は,職業奉仕も対外奉仕もどちらも超我の奉仕という考え方のもとに統合されているものと理解しています。しかし,ここへきてRIが明らかに左足,つまり社会奉仕,国際奉仕,青少年奉仕そしてロータリー財団に軸足を移しています。いまや職業奉仕は忘れ去られようとしています。そこで日本の伝統的なロータリークラブが危機感をもって強く反発しているわけです。
私も個人的には,職業奉仕の考え方がなくなったら別にロータリーである必要もないのであって,ライオンズやその他たくさんある寄付団体やボランティア団体と何ら変わりがないことになりますので,ロータリーとしては,やはり職業奉仕の理想は大事にしていくべきであるし,これからも勉強していく価値のある理念ではないかと思っています。
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職業奉仕について(1)
職業奉仕委員会
委員長 安藤元一
ロータリークラブの創立
1905年シカゴは商売もモラルが無く「騙される方が悪い」といった時代に、弁護士ポール・ハリスと3人の友人が2月23日、シカゴの現状を憂いて集まったのが始まり。その後、友人関係が進展し信頼関係から信用へと繋がり、商売上の「互恵のクラブ」として広がる。そしてポール・ハリスによりロータリーと名付けられ1906年には30名の仲間が加わりシカゴクラブが誕生。日本に伝わり1920年日本に伝わり東京ロータリークラブが誕生。
ロータリーの綱領(新訳)
1.知り合いを広めることによって奉仕の機会とすること
2.職業上の高い倫理基準を保ち、役立つ仕事はすべて価値あるものと認識し、社会に奉仕する機会としてロータリアン各自の職業を高潔なものにすること
3.ロータリアン一人一人が、個人として、また事業及び社会生活において、日々、※奉仕の理念を実践すること
4.奉仕の理念で結ばれた職業人が、世界的なネットワークを通じて、国際理解、親善、平和を推進すること
※ロータリーの綱領で使われている「ideal of service」=奉仕の理想・奉仕の理念
理念:理性によって得られる最高の概念
理想:努力して到達しようとする目標
→「奉仕の理念の理想的なあり方を学ぶ集団」
四つのテスト
1932年ハーバート・テーラーによって初めは企業再興の社是として創られた。
→ロータリーに導入後、職業奉仕の倫理規範となり、ロータリーに関する「物事の判断の基準」→現在では人間関係の和を良好に保つための指針として唱えられている
また、4つのテストは1つ1つ追及・分析するのではなく「4つひとくるみにふんわりと考えればよい」
「決議23-34」について
1923年セントルイスでの世界大会で採択された{綱領に基づく諸活動に関するロータリーの方針}というサブタイトルがついたロータリーの理念であり不易なるロータリー哲学を語っている。
ロータリーとは
基本的には一つの人生哲学であり、※1利己と利他の感情の間に常に存在する葛藤を和らげようと、修行することである。この哲学は奉仕-「超我の奉仕」の哲学であり、これは※2「最も良く奉仕する者 最も多く報われる」という、実践的な倫理原則に基づくものである。
※1利己と利他を併せ持つ「我」の人間性を認めるが、利己心と利他の心のシーソーを利他に傾けるよう努力せよ。→その方法を学ぶ処がロータリーである
He profits most who serves best.
※2 1902年アーサー・フレデリック・シェルドンによって販売学の教科書引用されたセールス成功の論理でした。 profit=報いの現意は、実利実益である金銭的な報酬の意味と解釈されます。つまり正当な利潤を無視した、精神的な満足だけではありません。
職業奉仕は迂遠な理論ではありません。シェルドンの職業奉仕は身近な日々の生業の中にある至極当たり前な考え方。シェルドンの職業奉仕理念発想の原点は、商売繁盛の基本理念と同じです。
→二つのモットー 「利他の心を以ってすれば、利自ずから己に還る。奉仕は無心であれ。」
I serve と WE serveについて
I serve
個々が同じ志と云う相互関係で結束した「集団」
WE serve
共通の目的のために組織化された『団体』
即ち I serveの Iは集団を形成する「我」。 WE serveの Iは団体に従属する「我」