卓話者 2018-19年度ガバナー 木村静之様
本日は研修例会ということでお招きいただきありがとうございます。パストガバナーの役目は現ガバナーをサポートし、地区のアドバイザーだということですので、今後も地区のセミナーや行事等で皆さんとお目にかかることがあると思います。
(新型コロナと各業界への影響、クラブの存在意義)コロナ禍で、業種によっては大きな影響を受けています。そんな状況下でメンバー相互が企業経営上の問題点を、胸襟を開いて相談し、親身になって助け合う、そんな仲間がいるということはありがたいものです。ロータリーの発祥はもともとそういう趣旨でした。
(ロータリーの誕生、初めの互恵主義)1905年2月23日、シカゴで青年弁護士ポール・ハリスと3人の仲間が心から信じあえる仲間を求めてクラブを作りました。はじめは、会員相互の助け合い運動で、「物質的相互扶助と親睦」と言われます。これによってそれぞれの企業は栄えていきました。しかし、相互扶助と親睦にとどまらなかったことがロータリーの発展につながります。社会奉仕の芽生えです。
(社会奉仕の芽生えと発展)1906年、特許弁護士のドナルド・カーターに入会を勧誘したところ、カーターは、クラブの互恵主義の説明を聞いてこう言いました。「お世話になった地域社会に何らの恩返しもせず何らの足跡も残さず、自分達だけ隆々と栄えていく、そのような団体に入ることはできない。」 これがきっかけでクラブに変化が生じます。初めての社会奉仕活動として、1907年シカゴ市内に公衆トイレを作りました。そしてこの「奉仕」の考え方は、ロータリーの拡大につながり、全米に、さらには世界に広がります。
(ロータリー財団を中心にした奉仕活動の成果)社会奉仕活動(=人道奉仕)を資金的に支えるためロータリー財団が1928年に発足しました。今日では、寄付などによる財団の収入が年間約4億ドル、支出は3億3000ドル、そのうち最も力をいれているのはポリオです。財団の補助金プログラム(地区補助金・グローバル補助金)を各クラブに推奨しています。ロータリー財団に対する外部の評価は、格付機関「チャリティ・ナビゲーター」から、11年連続で4つ星の最高評価を受けるなど、人道奉仕で大きな成果を挙げています。
(職業奉仕と人を育てるロータリー)ロータリーが職業奉仕を提唱する契機は、まずアーサー・F・シェルドンです。“最もよく奉仕する者、最も多く報いられる”という標語は1911年にロータリーのモットーとして採用されました。「商取引において長く安定した取引を続け利潤を上げていくには、相互の信用確立が大切。それには、相手の身になってものを考えるサービスの心が大切。」と述べました。次にガイ・ガンデイカーは「人を育てるロータリー」を強調し、「ロータリー通解」という教育パンフレットを作りました。さらにハーバート・テイラーは1932年「四つのテスト」を提唱します。こうして職業人の倫理運動としての理念が深化していきました。このような歴史を経て、ロータリーの綱領(目的)に「意義ある事業の基礎として奉仕の理念を奨励し、これを育むこと。具体的には、・・第2 職業上の高い倫理水準を保ち、役立つ仕事はすべて価値あるものと認識し、社会に奉仕する機会としてロータリアン各自の職業を高潔なものにすること」と掲げられています。すなわち今でもロータリーはその綱領に職業奉仕を堂々と掲げています。
(現在のロータリーの価値観)RIが最近掲げる価値観に職業奉仕の考え方が含まれているのでしょうか。「中核的価値観」と「ビジョン声明」で見てみます。中核的価値観 (2010年)とは、親睦、高潔性、多様性、奉仕、リーダーシップの5つです。この中で「高潔性」は一応職業上の倫理性を含んでいるようです。また、ビジョン声明(2017年)は「私たちは、世界で、地域社会で、そして自分自身の中で、持続可能な良い変化を生むために、人びとが手を取り合って行動する世界を目指しています。」というものです。この中に職業奉仕が含まれているのでしょうか?
(職業奉仕とは)職業奉仕の観念が薄くなっていることで「職業奉仕とはどうすることか」わかりにくくなっていますので、一つ例を挙げて考えてみます。ある女性ロータリアンが書いたエピソード「身近にあった職業奉仕の話」です。・・・「私に家の近所にとても美味しい小さなパン屋さんがあります。ある時パンを予約しておいたのに仕事で遅くなり夕方までに取りに行けず、翌朝もらいに行くことになりました。パン屋さんは、さりげなく棚にあった前日のパンを新しい焼き立てのパンと取り換え、渡してくれました。このパン屋さんは職業奉仕を実践していると思いました。私はこれからもこの店のパンを買い続けたいと思いました。」・・・なぜこのパン屋さんは新しい焼き立てのパンを渡してくれたのでしょうか。お客さんに最高においしい状態のパンを食べてもらいたいという気持ち、また、自分で納得のできる品物でなければ売るわけにはいかないという自分の仕事へのプライドではないでしょうか。世の中には、賞味期限切れの品物をごまかして販売するとか、商品の品質を偽装するという類のニュースは後を絶ちません。お客さんにわからなければ古いものを平気で販売する店もあれば、お客さんにわからなくても黙って新しいものを販売しようとする店もあるのです。私は、このようなエピソードを、自分の職業にも当てはめて考え、実践したいと思います。
(まとめ)日本のロータリーは、伝統的に職業奉仕を重視しています。しかし残念なことに、世界のロータリーでは職業奉仕という言葉が消えつつあります。RIの方向性は、目立つ社会奉仕活動(人道奉仕)を強力に推進する方向であって、これは「奉仕活動重視・例会軽視・職業奉仕無視」の流れではないかとの危惧があります。もっとも、RIの方向性は民主的な手続きで決めているのですから、我々日本のロータリアンは、それを否定するばかりではなく、大切な伝統を守りつつ、世界のロータリーの変化と折り合いをつけなければなりません。ご清聴ありがとうございました。