卓話者 秋保賢一副会長
岐阜中ロータリークラブとは法律的に見た場合にどんな団体なのかというと一応、権利能力なき社団ということになると思います。
権利能力とは、権利及び義務の主体となり得る資格であって、権利能力を有する者は、①自然人と②法人です。自然人というと何かアウトドア派みたいですが、これは法律用語です。法人が法律によって法人格が認められているのに対して人間の場合は生まれながらにして権利能力を有するということです。
そこで岐阜中ロータリークラブに法人格が認められるかというと法人登記をしていないので権利能力がないことになります。
「社団」と認められるための要件は、最高裁の判決がありまして、①団体としての組織を有すること、②多数決の原理が確立していること、③構成員の変更にもかかわらず団体が存続すること、④代表者の定めがあることで、岐阜中ロータリークラブはこの要件を満たしていると思います。
つまり岐阜中ロータリークラブは、権利能力なき社団であるということになります。
ここでクイズです。
第1問
権利能力なき社団であるロータリークラブの預金口座は誰の物かということです。現在は、「岐阜中ロータリークラブ会計○○○○」という名義だと思いますが、この預金は、全会員に「総有的」に帰属することになります。「総有的」に帰属しているので、「共有」の場合と違って持分権がありません。
第2問
岐阜中ロータリークラブが、会員から不動産の寄付(贈与)を受ける場合に登記名義はどうなるのかということです。これは、権利能力がないために「岐阜中ロータリークラブ」名では登記ができず、かといって「岐阜中ロータリークラブ会長○○○○」という肩書き付きの登記もできないようです。結局、会長の個人名義で登記されることになります。
この場合、登記するときに作成される登記原因証明情報や契約書の中で会長個人の所有ではないことを明らかにするということになると思います。
第3問
クラブの資産が全会員に帰属するということになると退会するときに自分の持ち分を清算してくれるということができるかということです。確かに各会員は、クラブの財産について権利はあるけれどもその法的性質は「総有」であって持分権がないので退会に当たって自分の持分を清算することはできないということになります。
クラブを解散するに当たって全会員でお金を分けたという話を聞いたことがありますが、これは出資持分を清算しているのではなくて単にお金の行き先がないので分配しているだけだと思います。
第4問
ある会員が、クラブの運営について内外で批判を繰り返し、ガバナーに直接、クラブ批判したりしたので会員身分終結決定をしたところ、その会員がその決定の無効や会員としての地位確認を求めて訴訟を起こしたとすると、この会員の主張は認められるかということです。
これについては、大阪地裁平成9年5月30日判決が次のように言っています。
「被告(ロータリークラブのこと)は、奉仕の理想を鼓吹するために、クラブ奉仕、職業奉仕、社会奉仕及び国際奉仕等の活動を行う私的な任意団体である。したがって、被告の会員であるという地位は、被告の右活動に参加することができることを意味するのみであり、それ以上に会員に何らかの権利又は法的利益をもたらすものではないし、原告も、純粋に奉仕活動に参加する目的で被告に入会したものであり、被告の会員であることによって何らかの利益を享受したことはない…被告の会員であるという地位や当該決定の効力に関する紛争をもって具体的な権利又は法律関係に関する紛争とはいえない」として除名の無効確認と地位確認は訴え却下となっています。
第5問
ロータリークラブが他のロータリークラブに吸収合併される場合、吸収される側のクラブの合併承認決議の議決要件は過半数か、3分の2以上かということです。
参考になる判決として最高裁昭和41年6月17日判決があります。
これはロータリークラブではなくて宗教団体なんですが、法人格がないので権利能力なき社団であるという点で共通しています。この裁判の事案が複雑ですが、ポイントは、権利能力なき社団の合併の際の議決要件にあると思います。
最高裁判決の要旨としては、「法人格のない宗教団体及びその上位団体の規則に当該団体の合併ないし解散の手続に関する規定がない場合において、その団体が他の団体と合併しようとするときは、民法第69条(一般社団法人法等の施行により現在は削除)を類推適用して信徒総会の解散決議(当時は4分の3の特別決議)を経ることを要すると解するのが相当である」としています。
ロータリークラブも同じように権利能力なき社団であり、定款及び細則に合併及び解散に関する規定が存在していないので、合併・解散に当たっては、現行法で言うと一般社団法人法が類推適用されることになると思われます。一般社団法人法第49条2項では「前項の規定にかかわらず、次に掲げる社員総会の決議は、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2(略)以上に当たる多数をもって行わなければならない。」とされていてその7号を見ると「第247条及び251条第1項(吸収合併契約の承認)及び257条(新設合併契約の承認)の社員総会」が挙げられています。
この問題については、合併・解散について定款にも細則にも何の規定もないので通常決議すなわち過半数によって決すべきであるとの意見もあろうかと思います。ただし、そうすると細則を変更するには3分の2の特別決議が必要であるとされている(細則第16条)こととの間で均衡がとれないと思います。
したがってあくまでも私見ですが、最高裁の判例及び一般社団法人法の規定並びに細則の変更が3分の2の特別決議であるとされていることとの均衡上、合併・解散の議決要件は3分の2以上の多数決だと思います。
ただし、会員自身が総会において過半数で良いということを決定した場合は、OKということになると考えます。