ガバナー公式訪問 卓話 木村静之様 

ガバナー 木村静之様国際ロータリー第2630地区 ガバナー 木 村 静 之
オープニングを生のピアノ演奏でお迎えいただき、国歌・ソングとも生のピアノ演奏でした。最近、例会で生の演奏ということがほとんどなくなっているなか、さすが伝統と格式ある岐阜Aグループの合同例会であると思います。

1  まず、RI会長のテーマについてお話しします。“Be The Inspiration” 「インスピレーションになろう」です。バリー・ラシン会長はバハマのかたで、医療機関経営のスペシャリストです。バハマは、米フロリダ半島とキューバの間、カリブ海に浮かぶ島です。テーマロゴはカリブ海の荒波を表しています。「インスピレーションになろう」の意味ですが、日本語で「インスピレーション」は「ひらめき」というような意味で使い、「インスピレーションを得る」という言い方はします。英語のINSPIREは、「鼓舞する」「意欲を喚起する」という意味があります。そうすると、「インスピレーションになろう」とは、ほかの人たちに対し「インスピレーションを与える」、「何かをやろうという意欲を吹き込む」、「心に火をつける」そういう人になろう、という意味になります。先月逝去された服部芳樹パストガバナーは「燃えよロータリアン」という名訳をされました。
ラシンさんは、前向きな変化を生み出す意欲を、課題に立ち向かう意欲を、クラブからも、地域社会からも、組織全体からも、引き出したい、意欲を引き出すための「インスピレーション」になりたい、あるいはなってほしいと述べておられます。

2 今年度の、私のガバナーとしてのテーマは、「理念をかかげ 意欲を喚起し 共に行動」というものです。まず、「理念をかかげ」をテーマにした理由です。世界のロータリーの趨勢が、近年、いささか「奉仕活動のロータリー」に偏っていて、理念が薄くなっている、という意見が特に日本のロータリアンから出ています。
奉仕活動のロータリー 増強、財団、寄付、プロジェクト推進を重視する面
理念のロータリー 職業奉仕、4つのテスト、例会を重視する面
私は、奉仕プロジェクトを活発に行うことは非常に大切なことだと思っています。ただ、世界のロータリーは、新興国の会員が増えてきたということもあって、「奉仕活動のロータリー」に傾いていると言えます。そのため「ロータリーの多様性」を認めざるを得ない状況で、2016年の規定審議会で大きな改正がなされました。例会は月2回でもよいとされました。当時のRI会長が「例会を何回開いたかよりも、地域社会にどのような変化をもたらしているかのほうが重要だ」と述べました。サンディエゴの国際協議会での私の体験ですが、新興国のガバナーエレクトは名刺と一緒に織物のポーチとか袋とか、名刺代わりの記念にしては立派過ぎるものをプレゼントしてくれました。先進国のロータリーから援助を引き出すことがガバナーの力量であり功績なのです。新興国の会員が増加し、先進国の会員が減少していることから、「奉仕活動のロータリー」に偏っています。そういう状況にあって、私はあえてロータリーの原点である理念を強調しなければならないと思うのです。
まず、職業奉仕の幹の中にある「奉仕の理念」をしっかりとかかげる。「かかげる」とはロータリーのモットー・四つのテスト・ロータリーの目的(綱領)に表される基本理念をいつも意識して、職業生活・社会生活で実践することです。最近も、日本を代表する企業で「偽装事件」などが発生しています。「産地の偽装」とか「等級の偽装」といった事件も発生しています。我々ロータリアンの感覚からすれば由々しき問題だと言わざるをえません。

3 そして、大切なのが例会です。例会は、職業人としての倫理を向上させ、互いに切磋琢磨し学ぶ場であります。例会のプログラムを大切にし、例会への出席を大切にしたい。理念の浸透を図るのは例会です。
若手会員の皆さんは仮に例会が減ったら「ラッキー」と思うか「残念」と思うか。仕事で忙しい世代は、例会に出る時間を作ることに苦労しているかもしれません。しかし、例会に出れば先輩や友人に会えるし、顔を合わせてこそ信頼関係を育むことができるのです。「例会に出席義務」があるといいますが、義務感から出席するのではなく、楽しいことがあるから出席するというようになっていただきたい。他方、例会のプログラムを企画する側も工夫をして、例会に出席してよかったという気持ちで帰ってもらえるようにしたいものです。
これに関連して、クラブ内での研修態勢を整えることも大切です。クラブの中に「研修リーダー」を作ることを推奨したい。情報委員長との兼任でも、職業奉仕委員長との兼任でも結構なので、クラブの中で研修全般に配慮する人がいてほしい。

4 次に「意欲を喚起」ですが、その前提としてまずは「会員基盤の強化」が必要です。増強できなければロータリーは衰退します。日本のロータリーは20年前に140万人でしたが、今は90万人です。漫然と放置すれば存続自体が危うくなり、理念を広げるということも言っていられなくなります。 若い世代に入っていただきたい。ラシン会長はローターアクト倍増ということも言われています。女性会員もです。今や、女性が職業を持つのも社会的な活動をするのも当たり前になっています。そうであれば、ロータリーのメンバー構成もそれに応じて多様になっていなければならない。今世界でロータリーの女性会員は20数%ですが、日本は5~6%。当地区では4.9%(三重県7%・岐阜県3.2%)。これを5年以内に15%以上にしたいと提唱されています。多様性(ダイバーシティ)は発展の基礎です。もともとロータリーは多様な職業人からなっています。もし単一の職業なら、その業種が衰退することによって衰退してしまいます。多様な人に入ってもらわなければ組織は衰退します。
増強の現実は、各クラブ1年間で平均1名の増強ができていません。各クラブ1人増えれば地区全体で75人増えるのですが、現実はそこまで行っていません。よく増強セミナーで、増強のためにどうすればよいかという話が出ますが、私は、クラブの中で一人一人の会員を大切にすること、会員が奉仕に対する意欲をもつこと、クラブを魅力あるものにすることであると思います。

5 次に、意欲を喚起するにはどうしたらいいのかということです。ラシン会長は行動力のあるリーダーらしく、意欲を喚起するには「熱意を持って強く伝える」とか「自らの行動で範を示す」、ということを言っておられます。私は、少し視点を変えて「感動体験を話そう」ということをご提案します。ロータリーでの感動体験をお互いに話すことです。ロータリーでは、見返りはお金ではなく感動です。奉仕活動で感動したこと、職業奉仕の面でも感動したこと、そういう感動体験は自分自身の中でさらなる意欲となりますし、そのような話を聞いた人も意欲が湧いてきます。意欲を喚起することによってクラブは元気になり、充実した活動に繋がります。

6 次に「共に行動」です。奉仕活動として何をするかは、各クラブの情報収集と創意工夫です。クラブの規模は様々で、各クラブの重点の置きどころも様々ですから、各クラブでアンテナを広げ、地域社会で何か改善すべき点はないか、あるいは世界で必要とされている課題は何か、という観点で取り上げていただきたい。どんなプロジェクトをするかは、地区の奉仕プロジェクト委員会からも情報を得ることができます。「財団の地区補助金」を活用した奉仕プロジェクトは、多くのクラブで実行されています。毎年でなくても活用していただきたい。また、「グローバル補助金」は、少し規模の大きい国際的な活動をする場合に使えます。

7 グローバル補助金事業としてひとつご紹介したいと思います。RIの2016-17年度年次報告に、当地区の中津川クラブと中津川センタークラブが行った「母子の健康」に関する事業が取り上げられました。 これがRIの年次報告書です。全28頁のなかの1頁を使って紹介されています。ブラジルのサンパウロ州で乳児死亡率が高い地域がありました。地元のレジストロロータリークラブと中津川のクラブが共同して、現地の医療施設に医療機器を提供し、住民を対象に産前ケアのワークショップの推進もしています。中津川市はレジストロ市と姉妹都市になっているというご縁だったそうです。グローバル補助金は、6つの重点分野に該当するという要件や、持続可能性という要件が必要です。現地の人たちが活動に加わるといったことも必須です。外国のクラブと一緒になってやるため言語など意思疎通が難しいことがあり、失敗例も報告されていますが、地区の委員会(奉仕プロジェクト委員会、国際奉仕委員会、財団委員会)がサポートしてくれます。
事業は「持続可能性」が求められます。持続可能性(sustainable)という言葉は、最近、国の政策で「持続可能な開発」とか「環境の持続可能性」、企業経営で「企業の持続可能性」、「持続可能なコーヒーの追求(スタバ)」などと、よく使われます。ロータリーでは、「持続可能な変化」をもたらすような援助をすることが大切です。単に物を寄贈するだけというではなく、現地の人も加わって、将来的に現地の自助努力でやっていけるように手を貸す、ということが大切です。「魚を与えるより魚の取り方を教える」ということです。

8 ロータリー財団は、世界では非常に高い評価を受けています。お金の使い道、使い方、透明性、いずれの面でも高い評価を受けています。時々、「財団の補助金は要件が厳しくて使いにくい」という声も聞きますが、それは、財団委員会が、ルーズな使い方にならないよう管理しているからです。財団はロータリー以外からも広く寄付を集めていますので、その意味でもルーズな使い方はできません。

9 次に「公共イメージと認知度の向上」についてお話しします。ロータリーは意外と世間に知られていません。あるいはロータリーという名前が知られていても、どんな活動をしているかは知られていません。なぜ公共イメージ向上が必要か(なぜ広報宣伝しなければならないか)というと、「いいこと」をしても知られなければ広がりがないからです。例えば、震災ボランティアに多くの人が集まりますが、それはマスコミで知らされて、「それじゃ私もやろう」となるわけです。公共イメージが向上することによって、世間から注目され、人が集まるようになり、我々の励みになります。その結果、増強にもなり、奉仕の拡充になります。方法として、奉仕活動の機会をとらえて、視覚的に伝えるのが効果的です。チラシ・パンフレット・写真・インターネット・ロータリーロゴの入った看板・横断幕などです。ロータリーの価値を物語る、ロータリーがもたらす地域社会への影響を伝えることです。その際、ロータリーの理念も伝えたい。「4つのテスト」なです。

10 “PEOPLE OF ACTION” 「世界を変える行動人」はRIのキャンペーンです。たとえば、奉仕活動の写真を掲載する場合に「行動」をイメージできる写真にする、など提唱されています。このロゴはマイロータリーからダウンロードできます。チラシなどに使ってみてはいかがでしょうか。

11 ロータリー賞、RI会長特別賞を目指してください。昨年まではRI会長賞」といっていました。3つの戦略的優先項目に沿って項目がいくつか並んで選択するようになっています。それほどハードルは高くないので達成可能です。目標に挑戦することによって意欲を喚起することができます。

12 ポリオ撲滅の問題があります。30年前、野生型ポリオウィルスによって麻痺障害を発症する人(子ども)は、毎年推定35万人でした。それが、ご覧のようになっています。現在も野生型ポリオウイルスによる感染が続いているのは、アフガニスタン、ナイジェリア、パキスタンの3カ国となっています。30年前と比べると、99.9%以上の減少です。3年間続けて0になれば撲滅したと言えるのですが、今年になってアフガニスタンとバングラディシュで6月までに11件発症が確認されています。残る0.1%のポリオとの闘いが問題です。予防接種活動の妨げとなっている要因は、遠隔地、不十分な公共インフラ、紛争、文化的障壁などです。ポリオ撲滅が実現すれば、ロータリーの人道奉仕の成果として、歴史に残ることと思います。引き続き寄付のご協力をお願いします。それとともに、機会を見つけては広報をお願いしたい。「ロータリーはポリオ撲滅に力をいれています」ということと、「ポリオ撲滅まであと少し」ということを世間に知ってもらうよう広報にも努めていただきたい。

13 もうひとつは、環境の持続可能性を守るということです。ラシンさんも講演で強調していました。環境汚染は、毎年、170万人の子どもの死亡原因となっています。また、地球規模で、現在、40億人が深刻な水不足を抱えて暮らしており、地球温暖化で海面が上昇すると島国は水没してしまいます。ロータリーが、先手を打つことのできる組織となれるよう願っています。

14 日本のロータリー100周年についてお話しします。日本のロータリーは1920年に東京で創設されました。米山梅吉さんが渡米したときダラスRCの会員であった福島喜三次(きそじ)さんに出会い、帰国した福島さんとともに日本のロータリーを創設しました。以来、苦難の道も経て、日本のロータリーの歴史を作ってきました。このたび、「日本のロータリー100周年実行委員会」から、各地区に、記念の鐘(ゴング)が贈呈され、ガバナー公式訪問の際に点鐘してほしいということです。台座に2630地区全クラブの名前が創立順に刻まれています。

15 米山梅吉記念館についてお話しします。静岡県にありますが、これも創立50年になります。米山梅吉さんの遺徳を顕彰し広く知っていただく趣旨で設けられました。主として地元の2620地区(静岡山梨)で支えてきましたが、50年となり大修繕の必要があることや、展示室・研修スペース・ビデオ作製などで、募金を全国のロータリアンに呼びかけています。米山奨学金の寄付とともによろしくお願いします。また、記念館を一度見に行っていただきたい。
以上で私の卓話を終わります。ご清聴ありがとうございました。

ガバナー補佐訪問卓話 小野幸満様

ガバナー補佐 小野幸満様皆様、こんにちは。今年度、岐阜Aグループガバナー補佐を務めさせていただきます岐阜ロータリークラブの小野幸満と申します。本年度、第1回目のクラブ訪問ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
昨年からガバナー補佐としての研修セミナーを受けてきましたが、もともとロータリーのことは熱心でなかったものですから、ロータリーというものがどういうものかわからないまま今に至っているのが現状です。先輩の皆様が多数おみえの中でお話をさせていただきますので、誠におこがましいとは思いますがお許しいただきたいと思います。
今年度のRIバリー・ラシン会長のテーマは「BE THE INSPIRATION」〔インスピレーションになろう〕です。訳しますと「心に火をつける人、鼓舞する人になってほしい」一言でいいますと「燃えよロータリアン」だそうです。このテーマに関連して、木村静之2630地区ガバナーは「理念を掲げ 意欲を喚起し 共に行動」というテーマを掲げられ、地区重点目標の第1番目に「奉仕の理念」の浸透と例会の充実を挙げておられます。日本のロータリーの根幹を述べられています。
私は、各クラブとの地区のパイプ役として連絡を密にすることによって、各クラブの活性化の一助となれますよう努力をしていきたいと思いますので、皆様のご指導の程、よろしくお願い申し上げます。
また、この14日には岐阜AグループのIM・ガバナー公式訪問合同例会がありますのでご出席の方にはよろしくお願いいたします。
どうもありがとうございました。

2018年7月10日 | カテゴリー : 卓話 | タグ : | 投稿者 : gifunakarc

ガバナー補佐訪問 箕浦洋和様

ガバナー補佐 箕浦洋和様RI2630地区 岐阜Aグループ
ガバナー補佐 箕浦洋和 様

2017-18年度RIテーマ“Rotary:Making a Difference”を理解いただき、地区並びにグループ主催の会合に積極的に参加し、行動していただき、感謝申し上げます。私自身も他のIMやグループ内クラブ訪問を通し、数多くのロータリアンと交流させていただき、そのすばらしい人間性と奉仕活動に触れる機会を与えていただきました。改めて「ロータリーの奉仕は、個人個人の発意にあり、主体はロータリアン一人ひとりにある。クラブが団体で奉仕するのが本筋ではなく、クラブはロータリアンに奉仕の気持ちを植え、行動を起こさせるのが役目である。」という言葉を再認識いたしました。
クラブ訪問を通じ、感じたことの一つに“会員 青・壮・熟”の調和があります。
青は、まだ、ロータリー入会歴が浅く、ロータリー以外の知識がかえって新鮮な空気として、ときに滞りがちなクラブのムードに程よい刺激の風を与えてほしいと思います。ロータリー以前からの4大奉仕に加えられた、青少年奉仕部門には数多くの提唱プログラムがあります。12歳からの中・高校生の地域への奉仕活動と国際交流を実施するインターアクト活動。高校生対象1年間の相互訪問を行う国際青少年交換活動。社会人、大学生を対象にしたローターアクト活動。アジアからの留学生支援の米山記念奨学会。ロータリー財団が行う派遣学生、この部門から幾多の才能がグローバルな世界で活躍する舞台で開花させています。青はそれらプログラムに参加している年代に近いだけ、彼らの考え方・行動に理解を示し積極的に参加していただきたい。それら若い世代から近い将来、必ずロータリアンが育ってきます。
壮は、まさに現在、ロータリー活動の根幹をなす世代であります。クラブの在り方、今後の道筋等、考え、決定し、諸先輩から受け継いだ伝統とクラブ特色を若い世代へ継承し、クラブが継続する成長を成し遂げる役割が大きな責務と考えます。
熟については、会員歴が長く、功成り名遂げられた功績者の方々です。例会では多くの知人にも恵まれ、若い方からは尊敬の念で接されています。クラブは、誠に居心地がよい場ですが、それを続けるにはクラブに継続する力と若い力が不可欠です。自分や友人の後継者で将来、ロータリーの力となりそうな人がいれば、委員会や執行部に紹介し、絶えず人の流れを作っていくことが、居心地のよいクラブを続けるためにも必要と考えます。
以上のように、青・壮・熟の調和が取れたよいクラブは、端から見ていても羨ましく、新会員の希望者が絶えないと考えます。
最後に、このような場所で発言の機会を賜り、皆様と話し交流させていただきましたことを心より感謝申し上げて、挨拶とさせていただきます。

アジア保健研修所 林かぐみ様

林かぐみ様『アジアの草の根の健康づくり-各国のNGOの活動から』
公益財団法人 アジア保健研修所(AHI)
事務局長 林 かぐみ 様
はじめに
昨年10月の例会に続き、本日はお招きくださりありがとうございます。今日は、これまで駆け足でお話しがちだったことをもう少し丁寧にお話できればと考えております。特にタイトルに挙げました「草の根」ということです。なぜ、私どもAHIが「草の根」を重視するのか、また、世界的にはどのような動きがあるのか、をお話したいと思います。
最初に、少し皆さんからお聞かせください。「健康にとって欠かせないもの」「ご自身の健康にとって大切なもの」は何でしょうか? 栄養、睡眠、運動、病院、医者…様々なものが考えられます。「したいことができる自由」と答えた高校生もいました。いわゆる途上国の状況を考えると、社会制度も重要です。日本でも国民皆保険が実現したのは1961年ですから、そんなに古いことではありません。

アジア保健研修所(AHI)にとっての「草の根」
AHIは、1980年に発足した民間の国際協力団体(NGO)です。当初、愛知県知事の許可にて財団法人として発足、その後、公益法人改革により2012年に公益財団法人となりました。定款にあげる目的は次の二つです。一つは、人づくりを通じたアジアの人びとの健康増進に寄与すること。もう一つは、日本国内でのアジアや国際協力に関する理解を推進することです。設立の契機は、この小学6年生教科書にある通りです。

Q:医師の派遣や病院の建設ではなく、どうして研修事業なのですか?
A:「貧しい人々の健康を守るためには、医師だけでは限界があり、地域の事情をよく知っていて、みんなの生活のことまでいっしょに考える人の育成が必要だと考えたのです」
この教科書は岐阜市でも採用されています。<東京書籍「新しい社会小6・下」>

これは観念的に導いたことではありません。医者であった創設者自身の体験に基づいています。1976年創設者の川原(故人)はネパールの僻地の病院で3ヶ月間、医療協力にあたりました。そこで目にしたのは、あまりに重篤な状態になって病院にやってくる患者さん。もう少し早く来ればという思いを持ちつつ、村々を巡りました。
急な斜面を水かめを担いで往復する女性たち。学校は教室が足らずに青空のもと。それももっぱら将来の稼ぎ手とされる男の子たちが通い、いずれ家族の健康を守る役目を持つ女の子たちは後回しにされがちでした。川原が家々の軒先に鶏がいるのを見て「卵を食べて栄養をつけなさい」といったところ、「ドクターあなたはわかっていない。彼らにとって卵は現金を得るために売るためであって、自分たちが食べるものではありません」と同行した保健ワーカーから言われたのです。そして、村の人たちにとっては、病院にかかることは、物理的、経済的にも、多くの高い壁があることを理解するようになりました。
そんな中で鍵となると思ったのが、既に活動していた現地の保健ワーカーです。住民を指導し、相談にのり、彼らの文化や生活に沿ったアドバイスをしていました。この人たちをもっと育て、彼らがもっと活躍するようになること。そのことによって、予防や地域での健康づくりが推進され、人びとの健康が守られるようになるのではないかと考えました。

その頃、世界的にも川原自身の体験は、特別なものではありません。貴クラブが協力してくださっているフィリピン、ミンダナオ島で、長く地域保健・生活改善に取り組んできたNGO、ダバオ医科大学付属プライマリヘルスケア研修所(IPHC)の始まりもその一例です。1970年代、一組の医師夫妻が貧しい人たちのために無料診療所を開きました。しかし、数年経つうちに、果たしてこれがいいのだろうかと思い、保健ボランティアの育成を始めました。病気になって治療した人がまた同じ病気でやってくる。これでは何も変わらないと考えたのです。そこから保健ボランティアを募り、その人たちに指導し、その人たちが近所の人たちを助ける。AHIが長年つながりを持っていたインドの医師夫妻も全く同じ背景から治療をやめ、啓発活動へとシフトしていきました。
世界各地でこのような多くの実践があり、その経験は、1978年世界保健機関(WHO)とユニセフが行った会議で「アルマ・アタ宣言」としてまとめられました。そこでは、従来、都市部・医療機関重視であったものから、農村村部・漁村部での「草の根」での、予防接種などの普及、衛生環境の改善など基本的な保健サービスと環境改善の重要性が打ち出されました。そして、そこには、住民の参加が必要だとされました。

フィリピンのNGO
先ほどお話したダバオのIPHCというNGOは、保健ボランティアを育成する中で、地域のリーダーを育て、住民が中心となった活動を生み出していきました。さらには、直接的な保健活動だけではなく、住民グループ形成、収入向上のための農業プロジェクト、女性たちを中心とした貯金と小規模貸付のプロジェクト等々へと総合的に生活改善に取り組むよう展開していきました。
フィリピンでは、1986年に独裁的なマルコス政権が倒れ、民主化の動きが始まりました。地方分権、その中でのNGOも位置づけられるようになりました。そして、行政とNGOの連携も大きくなっていきました。NGO関係者は、自分たちがその地域での活動を修了しても、そこに残っていくものにしていかなければならないと考えています。住民自身が自分たちによる活動として継続すること、それを行政が支援する、あるいは制度化すること。それが重要視されるようになっていきました。AHIとIPHCの関わりをそれを念頭に、行政が関わる地域づくりが進められました。

そして、今、貴クラブの協力の相手となっているのが、ニューコレリア町という人口5万人ほどの地域の町役場の職員や議員、保健ボランティアなど、以前AHIやIPHCの研修に参加した人たちで作る組織です。
約20年前にAHIの研修に参加したニューコレリア町健康課課長のナンシーさんは、この町で一か所しかない町の診療所で診療を行うドクターでもあります。彼女いわく「住民の話し合いが様々なところで行われると、健康課題を含め、いろいろな地域の課題が浮き彫りにされる。行政はそれらを受け、住民の理解を得ながら、事業を進めることができる」と住民参加は様々に大変であるけれども、それは地域づくりの基本であると話します。
超高齢化、それに伴うコスト増大の日本の地域社会を見ると、地域の支え合いを楽観的に語ることはできませんが、一方、従来いわゆる専門家に頼ってきた私たちの「健康」を改めて見直すと、地域にあるいろんな資源を見直すことに可能性を見つけられるかもしれません。

タイの元研修生は、都市部への出稼ぎで過疎化が進む農村部で、困難な状況にある家庭の子どもたちも一緒に高齢者を訪問する活動を行っています。それは子どもたちにとっても自分が誰かを支えているという自信につながり、互いに励まされると言います。そういったことの中に日本の私たちにも参考になることがあるように思います。